忠臣蔵に登場する忠義の四十七士は、大将となる国家老だった大石内蔵之助さんのように高い身分のものもいる一方で、その身分は様々です。高い身分ながら討ち入りには参加しなかった方もいれば、低い身分ながらも命を投げ出した方もおられます。
後者の筆頭として名前を挙げられるのが寺坂吉右衛門さんです。彼の身分は足軽で3両2分2人扶持という、四十七士でももっとも低い身分のメンバーであり、正確に言えば浅野のお殿様ではなく吉田忠左衛門との雇用関係に当たる人物です。
本来なら討ち入りに参加するような身分ではないのに、命を賭けた討ち入りに参加した彼は、四十七士の中でも『忠義』という言葉を象徴するような存在として人気を博しています。
しかし奇妙なことに彼はどこかのタイミングで四十七士から離脱しているのです。
討ち入り成功後に泉岳寺へ引き上げたメンバーは46人。勿論切腹をしたのもこの46人であり、討ち入りに参加していたはずの寺坂さんの姿は忽然と消え去ってしまっていました。
その事に関して直属の上司に当たる吉田忠左衛門さんは不快感を示し、大石内蔵之助さんは「軽輩者であり、構う必要はない」として、その足取りは不明です。
一説には討ち入りの成功を国に知らせる為に、足軽の身分だった寺坂を離脱させて報告に走らせたとも言われていますが、直木三十五さんはこの作品でもう一つの説を物語化させています。
それこそが、タイトルどおり『寺坂吉右衛門の逃亡―。
ネタバレ等は続き以降で。
第一話で妹の思い人との関係を許した主水之介。二巻では既に同居している模様で、「な、京弥さま。あのう……お分りになりましたでござりましょう?」などと、非常に暑苦しい状態で中むつまじく過ごしている様子。
いつの時代も恋愛は素敵です。
一方、刀のメンテナンスをしている主水之介…と、そこへ妹の菊路と、若き天才剣士でもある京弥が飛び込んでくる。主水之介の家の庭に、血まみれの遊び人風の男がもぐりこんできたのである。
事情を聞けば濡れ衣で役人に追われており、かくまってほしいという。
この第二話は旗本退屈男らしさという意味では第一話よりも成熟した感じで、男を追いかけてきた役人の無礼に『この眉間の三日月形が分らぬかッ』と一喝、追い払ってしまいます。
そうかと思えば、本当に怪しい奴だったら困ると、かくまった男のあごを切りつけて目印としてしまいます。
さてはて…。
ネタバレ等は続き以降で。
合唱をし、天人像に向かって正座している―。
こんな不可思議な状態の遺体の元へ呼ばれた法水麟太郎。
一流の刑事弁護士である彼でさえ動揺を隠し切れなかった…。
そんな状態のままで、僧侶は頭に傷を負い、絶命していたのである。
足跡を消したトリックは、解った。
しかしどうやって殺したのか…?
ミステリー史上に異名を馳せる『黒死館殺人事件』の主人公のデビュー戦です。
以下、インプレッション。
黒死館殺人事件は物語そっちのけでウンチクが語られ、その過程の中で読者が段々と物語がナンだったか解らなくなるという異色の作品でしたが、それと比べるとこちらはまだ読みやすいほうだと思いますが、それでも『どんだけ物知りやねん、お前』と突っ込みたくなるような部分は目立ちます。
結論に行き着くまでの飛躍加減が素晴らしい。
作品の中で被害者の精神が蝕まれていく様子を探るのにフロイト流の夢占いが登場し、そこから彫像愛好症(ピグマリオニズムス)という素晴らしい結論に行き着いたりしています。
トリックという点では、集まった情報に対する結果としてはそう破綻しているわけではないものの、そこに行き着くまでの経緯が推理小説というものの中でどれだけ大切なのかという事がよく解る作品です。
この作品にワトソン役がいればなーと思いました。
ワトソン役というのは天才と一般読者との間に入ることで距離を縮めてくれる存在でもあるはずです。今作での熊城ではその役割は、少し弱かったかなぁーというのが感想です。
しかし作品の雰囲気は間違いなく日本の推理小説の源流の一つ。細かいことよりも雰囲気を楽しみながら読み進めたい一作です。
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