『戦いの勝敗というものは、戦場において決するのは三割である。七割は戦場に出る以前に決まっている』
様々な戦術を編み出してたくみに勝利を収めた戦国武将たち。
そんな彼らの功績を戦の仕方からではなく、情報戦術の面から見直し、再評価を下したのがこの一冊です。
いつの時代も腕っ節が強いだけでは天下は取れない。
幾つもの戦を勝ち抜いてきた英雄達には、それなりの情報戦略があった。
戦国時代を織田信長まで、そして天下統一の豊臣秀吉まで、そして戦国時代から平和な江戸の時代を築く徳川家康までの三つに分けて、それぞれの三武将の情報戦略、そして同時期に活躍した戦国武将の情報戦略を学びます。
意外に思えるのは、攻撃的なイメージの強い織田信長の情報戦略。
彼は戦の勝敗を決する要素のうち、七割は情報が占めていると考え、情報を集める為に多額の金を費やしていた。
しかしただ情報を集める事だけに躍起になっていたわけではなく、長篠合戦の際には相手のスパイを買収し、敵へ誤った情報を流すように仕向けたり、桶狭間の戦いでは圧倒的少数ながらも敵地へ乗り込むと『仲間割れだ!』と叫ぶ事で、相手を混乱させ、同士討ちを誘発させたりと、情報を操作することで相手を霍乱させていた。
豊臣秀吉は織田信長の下で、徳川家康は織田、豊臣、そして敵であった武田信玄の情報戦略からその重要性を学んだという津本さんの解説からすると、情報戦略の走りは織田信長だったのかもしれません。
彼が情報戦略を重視するようになったのは、若くして織田家を相続した為に信頼を得られず、二十万石あった所領が八万石まで減り、『三つの頭のヘビに狙われている』(周囲に今川家の城が三つあった)状況で、現状維持を望むことさえ許されない環境にあった事が原因のようです。
また、生来の伝統に従わない気性から、本来は大名は御目見え以上の地位の人間としか喋らないという差別を取り払い、武士と地下人の両方からの情報を耳にしてきた事も、情報の重要性であったり、他の伝統に則って御目見え以下の人間からの情報を遮断してしまっている大名の情報戦略の甘さを気づかせる要素だったのかもしれません。
こうして三大名の時代を『情報戦略』という視点から見ていると、歴史の教育ではサラリと描かれている戦の結果も、実は綿密に計算されつくして出た結果だったという事が見えてきて興味深いです。
『七割は戦場に出る以前に決まっている』。それこそが情報戦略なのです。
『条約は結びそこない、金とられ、世間にたいし、なんといわくら』
上記は岩倉具視使節団の欧米訪問の成果を皮肉って読まれた狂歌です。
確かに条約改正の予備交渉のはずが勇み足で本交渉へ持ち込んで失敗させたり、旅路の途中で詐欺まがいに金を取られたり…、成果という面では余り芳しくありませんでした。
そして一方、彼らが国外を回っている間に残された政府は学制の制定、改暦、郵便などの大きな改革を次々に行ったので、使節団として出かけていた日本のトップリーダーたちはいなくてもよかったのではないか、むしろ彼らがいないからこそスムーズに物事が進んだのではないか?…と、イマイチ岩倉使節団の評価は上がらないままです。
しかし泉 三郎さんは言います。
大きすぎるものは近くにいると、まるで森を入り口から見るとその全貌がわからないように、良く見えないのではないか…と言います。
だからこそ、彼らの旅から130年以上が経って、もう一度彼らの旅、そしてその成果を見直してみようではないか…という一冊です。
冒頭の辺りで、バブル崩壊後の日本の状況を、時代の大きな変革期を迎えていた明治維新直後の日本の状況となぞらえて、彼らの旅が現状打破の何らかのヒントになるはずだ…といった旨の記述はあるものの、よくある『無理やり過去の状況と今の状況を関連させて語る』ような事はなく、純粋に岩倉具視率いる使節団の旅路、そして戻ってからの政治への取り組み方などを追っているもので、特に前半は彼らの紀行のように面白く読めます。
教科書ではせいぜい数十ページで終わってしまう部分ですが、この一冊を通して読むと、何故盟友だった西郷隆盛と大久保が対立してしまったのか、そして教科書では余り知る事のできない現在にも影響を及ぼした岩倉使節団が見て学んできた事がどのように政治に反映されたのかがよく判ります。
彼らは訪問した多くの国で歓迎され、高い評価を受けています。堂々たる日本人―。国の変革期という危機感を持ったトップリーダーたちの旅は、現在の日本人が失いかけている『元気』の溢れるものでした。
ネタバレ等は続き以降で。
日本の歴史を様々な側面から見る本は沢山あります。
例えば男から見た歴史、大奥などに代表されるような女から見た歴史、また庶民から歴史の動きを見たり、文化から人々の考え方の変遷を追うというものもあります。
それぞれに年表を追う歴史の勉強とは違う歴史の側面を見せてくれるので、非常に興味深い内容になっています。
その中で今回紹介する『日本経済史』は、歴史を経済という側面から見てみようというもので、古くは旧石器時代から、近代、戦争を経て、経済大国へと復興していく日本経済の歩みを追います。
内容に関しては、何かの側面から歴史を見る…という意味では、かなり歴史の教科書らしさが強く、資料や数字などから当時の経済を正確に再現しています。
最もページを割いているのは、近代〜第二次世界大戦迄の期間。
特に資本主義の成立前後は非常に詳しいです。
石井寛治さんは他の著書でもその期間にスポットを当てたものが多いので、自然とそうなっていったのか、もしくは日本の経済の歴史というものにスポットを当てた際のページ配分は自然とそうなるのか…。
江戸時代以前や戦後の昭和期に関しては一通り触れられているものの、ボリュームの面では、その時代に焦点を当てて勉強したいという人には余り向かないように思います。
数字や数式などのデータも豊富で、この本自体から知識を吸収すると同時に、自身の今後の勉強や研究などの土台としても使えるので便利です。
また経済という側面を見てから歴史をもう一度見直すと、歴史が少し違って見える部分も多々あります。そういう意味では日本史をもう一度楽しめる本かもしれませんね。
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