『他の作家の文体の模倣をこととしてはならないということは、文学的技巧の第一原則でもある』
探偵:シャーロック・ホームズ 語り手:バーティ・ワトスン
ユニークな批評などでも知られるアントニー・バークリーが描いたホームズは、ドイルの文体を模倣して作品を作るというパスティーシュの王道を敢えて否定し、その上でP・G・ウッドハウス(イギリスのユーモア小説の作家) にドイルの代打を頼むとして、模倣ではなく彼独自の文体でホームズを書いてみるとどうなるのか…?というものでした。
これは面白い試みだと思います。
結構ホームズを題材にしたブラック・ジョークの作品は出ているものの、あえてP・G・ウッドハウスの文体にこだわった結果、非常に不思議な感じのホームズのパロディが構築されています。
依頼人からの手紙の内容もドイルとは少し違っています。
内容自体も酔っ払った男性から受けた求婚の話が翌日になって無効だといわれ、それをどうにかして欲しいというものでしたが、『わたくしが言いたいことは、どうなってんの、ということなんですけれど』などと、ドイルの筆からは絶対に飛び出しそうに無いフレーズが出てきます。
しかも依頼人が到着した際のホームズの発言も要注目。
『ワト公、賭けてもいいな。女はちょっと気取ってて、しかもすこぶるつきの上玉だ』
うぉ、こんなホームズ見たこと無い!
ちなみに実際に依頼人の女性を見たワトソンの感想は『美味しそうなチーズの上に輝く日光を思った』とのこと。
ちなみにホームズはそのまま依頼人と一緒にお茶へ出て行き、思いもよらぬ(ホームズを愛してやまないファンには絶対に想像できないような)方法で事件を終わらせて戻ってきます。
もちろん正統派を好む人には悪ふざけしすぎな感じもあるでしょうし、これのどこがホームズやねんという意見もごもっともですが、ドイルの文体というものから思い切って離れてみることで印象がこれほど大きく変わってくるというのも、なかなか興味深い。
願わくば既存の事件でも、オリジナルの事件でも、この文体で一個正当なものを読んでみたい思いました。
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