名探偵キャサリンシリーズから、千利休をピックアップした『千利休・謎の殺人事件』です。山村美紗さんは常々自身の作品中で取り上げるものに対しては、主人公のキャサリンや浜口一郎さえ及ばない程、勉強されているなと感服してしまうのですが、この作品ではそれが顕著で、もはや『浜口先生とキャサリンの千利休の謎(殺人事件もあるよ!)』といった趣です。
千利休の生涯にスポットを当てたドラマの撮影に絡んで起こる殺人事件を通して、キャサリンたちは千利休という人物の生涯にも興味を抱き、そしてその人柄やエピソードに惹かれていく。
切腹に至るまでの原因とされる様々なエピソードと、その理由の諸説。
単に千利休に興味があるというだけで、山村美紗さんやミステリ自体も余り興味がないという方でも楽しめる、歴史とミステリが詰め込まれたお得感たっぷりの一冊。
まず、二人は海外で映画賞を獲得するなど話題の千利休の生涯を描いた映画を見に行っていた。鑑賞後、食事を取りながら映画の感想を話す二人。
浜口:キャスティングが豪華だとの感想。
キャサリン:茶器や衣装の出来に感激の様子。
このカップル、映画の内容褒めてねぇ…。
ところでキャサリンは千利休の切腹の謎について興味を抱いた様子で、映画で取り上げていた意外の理由とされる説を浜口から聞きだす。
ちなみによく質問攻めにされる浜口は先に『僕は茶道は苦手だから、相談されてもわかりませんよ』と釘を打つ。
ちなみにキャサリンが冒頭で千利休の事を『ミスター千』と呼んでいたりするのも微笑ましい場面です。
活動家のキャサリンは諸説の中で、大徳寺の三門の上に千利休の像を上げた為に豊臣秀吉を怒らせてしまったというものにも興味を抱き、いきなり大徳寺行きを決定する。
『利休が待ってるわけじゃないし… 』と、とんでもない理由で渋る浜口だが、それなら一人で行くというキャサリンに負けて、同行する。
その先で出会った卒論の為に京都へ訪れていた大学生の男女のグループで親しくなる。彼らと千利休について楽しい語らいの一時を持ち、別れたのだが…翌日、丁度行われていた千利休のドラマのロケの茶室で、知り合った学生の一人が死んでいたというニュースが飛び込む。
用意されていた茶碗に毒が付着していたというのだ。
彼を殺す為?
それとも本来最初にその茶器を使うはずだった俳優を殺す為?
千利休というキーワードで繋がった人々の間で起こる連続殺人―。
ネタバレ等は続き以降で。
ところで彼らは非常に芸能ニュースに詳しいという事が判明しました。
キャサリンのみならず、浜口でさえも、ドラマに出演している俳優達の男女関係から、ドラマのキャスティングにまつわる話に至るまで詳細に知っている。
ちなみに浜口曰くキャサリンの影響だそうです。
キャサリン、京都の文化のみならず
日本の芸能ニュースの研究にも熱心だったご様子。
いつも通り、キャサリン&浜口のラブラブぶりも変わりなく。
不意に出た、その内にはアメリカに帰国するだろうという将来的な話に黙りこくってしまう浜口、自作の茶杓に『イチロー』と『キャサリン』とつけようとはキャサリン。
アメリカの元副大統領でもある父の知り合いの政治家の案内を頼まれていた為に浜口の誘いを受けられなかったキャサリンに『
僕よりお父さんやアメリカの政治家のほうが大事なんだ』
↑こいつ、大学の助教授です。
また、東京へ来た際に知り合った大学生の家に泊まるキャサリンと離れて伯父の家へ泊まった際には、寝る場所が違うだけなのに電話をしたいと思いつつも、『明日は会えるのだからと辛抱した』。
たまたま知り合った大学生の一人との縁談を伯父から勧められていた浜口は、それを断り、学生の誰と誰が付き合えばいいといったそんな話をするのだが、キャサリンは『
私は、みんなあんまり好きじゃない。好きなのはイチローだけよ』との事。
話の流れをぶった切るアツアツぶりです。
ちなみにこの発言の後『キャサリンは、魅力的な目で、浜口を見つめた。』の一文で第七章終了!
どれだけ思わせぶりなんですか、山村美紗先生っ。
尚、この作品で浜口は政治家の伯父から30万円という高額な小遣いを貰います。これは彼の給料より高額との事。…助教授って、そんなに給料は良くないんですね。
さて、事件は第二の小道具担当の男性、そして千利休を演じる主演男優までもが同様に毒殺されてしまうという展開…。
特に主演男優の死の際には、『りく』とのダイイングメッセージが残されており、作品中で『りく』を演じる女優にも疑惑の目が向けられる。
ところである女優の事情聴取で、バッチリ化粧をした状態でやってきた一人に対して、『さすが女優だ、美しい』との感想を抱いたのは狩矢警部。役得を噛み締めておられるご様子でした。
ところでこの事件の中でキャサリンが一番立腹していたのは、小道具係りの男性の殺人事件。先に死んだ男性は金持ちの両家の出身、主演男優も苦しい時期はあったものの、現在は人気者…それに対して、まだまだ駆け出しの青年に高級なお酒を殺人のトリックに用いるようなやり方をした事に腹が立っていたご様子。
事件の真相は、利休の過去を調べて色々な事実を知っていたキャサリンたちが、同様に事件関係者の過去を念入りに調べなおすことで、解決への光明を掴む。
過去に潜んだ、悲しい出来事の数々。
自分の犯した罪に気づかず生きていく人々。
しかし被害者の胸に残された傷は痛み、そして人を狂気に駆り立てる。
ちなみにラストは二人のラブラブです。
事件は解決したものの、後味の悪さに引きこもってしまうキャサリン。
そんなキャサリンを心配しつつもそっとしていた浜口だが、クリスマスイブの日に強引に室内に入り込む。
『どうしてもっと早く来てくれなかったの』
室内にはクリスマスのご馳走が用意され、窓の外では初雪がちらついていた。