本の虫、中毒日記

読書感想文、乱発中。

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Fujisaki

Author:Fujisaki

基本はシャーロッキアン。
でも雑食の本の虫。資格からマンガまでそこに文字がある限りっ。

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外科室/泉 鏡花
先日、『文学少女と月花を孕く水妖』を読んで以降、久し振りに読みたいなーと思っていた泉 鏡花さんの外科室を読んでみました。

□ あらすじ
舞台は病院の手術室で、正にこれから手術に掛かろうかという段階だった。
しかし患者である女性は、手術に際して麻酔を使うことを拒んでいた。
その理由は自分の心の中にある秘密を、麻酔で眠っている際にうわ言ででも、口走っては困るから…だった。
やがて彼女は手術を行う医者が高峰医師である事を確認すると、麻酔を使わずに激痛を伴う手術を行うように答えた。
そして彼女は激痛に耐えながら、高峰医師にこう告げる。
あなたが手術をしてくれているのなら大丈夫だと、そして…、
『でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!』と。
彼女は高峰医師のメスで自らの胸を切り、そして高峰医師の『忘れません』という言葉に満足そうな笑みを浮かべ、安らかな眠りへと落ちていくのであった…。

□ そぎ落とされた短編
作品としては短編に分類されるこの作品ですが、個人的には長編小説の落とせる肉を全てそぎ落として残った部分が、たまたま短編サイズの作品だったという気がしてなりません。
それだけこの作品の始まりは、唐突です。
まだ手にとっていないという方…何の前置きも無くいきなり手術室から始まる作品は、あなたを困惑させる事でしょう。
でも一通りを読めば、きっと世間に五万とある長編よりもずっと考えさせられる感想を手にする事が出来るでしょう!
短い一つ一つの言葉に、長編なら何ページも費やして表現される幾つもの感情が込められているのです。
それは…きっと、二回目に読んだ時に気付かされるのかもしれません。

作品へ対する僕なりの解釈、ネタバレ等は続き以降で。



□ 心の秘密とは
患者である伯爵夫人が抱えている心の秘密こそ、この作品の最大の鍵です。
しかしこの心の秘密はほぼ確定されているもので、伯爵夫人の抱く高峰医師への恋心です。
作品の後半、伯爵夫人の死後に過去の思い出として語られるパートへ二人の出会いが描かれています。
…それは出会いと呼ぶには、とても小さな出来事です。
高峰医師が医学生の頃、小石川植物園を散策中に二人はすれ違っています。
たったそれだけの出会いで、運命を感じ、恋に落ちたのです。

□ 『二人』の恋心
実はこの恋心は伯爵夫人のものだけでは有りません。
…というよりは、回想を読む限りでは高峰がすれ違った貴族の女性に恋をしたという色合いの方が強いのです。
上記の出会いの際、高峰医師と連れ添っていた友人は貴族の非常に美しい女性とすれ違えた幸運を喜びます。
それほどまでに彼女達は鮮やかで、美しい存在だったのです。
高峰医師はこの出会いの後、女性へ関心を示すことは無く、結婚さえしていませんでした。
泉 鏡花がこの作品に与えた恋心は、極限にまでプラトニックで純粋な感情だったのでしょう。
ご自身も師匠格である尾崎紅葉さんに反対された奥さんとの純愛を貫き通し、結婚していましたし、そういった恋愛感の究極系として描いた作品なのかもしれません。

□ 恋のキーワード
なんだか女性向け雑誌のコーナーみたいなタイトルになりましたが、この作品の中には二人の愛情を思わせるキーワードがいくつか登場してきます。
・ 『私はね、心に一つ秘密がある。』
これは最も特徴的な台詞ですが、夫人には人に聞かれては困る秘密が有り、それが一度すれ違っただけの高峰医師への恋心だったのです。
そんなに惹かれあうなら結婚すれば…と思うのですが、当時の身分に対する考えにより、なかなか思いだけでは難しい事情もあって別の男性との結婚をしてしまったようです。

・ 「刀を取る先生は、高峰様だろうね!」
麻酔なしで手術をするのに際して、医師を確認したひと言です。
この解釈は病院で偶然に…とする意見と、探し当てて高峰医師を指名したという意見が有ります。
既に手術を順延するのは難しい時機になっており、恐らく本人も麻酔なしの手術が死を意味することになるだろう事は判っていたのではないでしょうか。
だからこそ、高峰医師を選び、思いを告げて死のうと決めた…のではないでしょうか。
なので僕は後者の高峰医師を探し出して指名したという考えがいいと思っています。

・ 『夫人が蒼白なる両の頬に刷けるがごとき紅を潮しつ』
いざ手術が始まった際に伯爵夫人の反応です。
勿論、激痛を伴う手術の始まりに対する感情によるものという見方も出来ますが、純粋な恋愛の感情として読み取ることも出来ますよね。ここだけは酷く純情な反応のような気がします。
この後、二人の恋愛感情に訪れるのは、苦しい別れなのですから、一瞬の安らいだ気持ちが描かれているのだと、僕は思うというよりは、思いたいと考えているのかも知れませんね。

『いいえ、あなただから、あなただから』
麻酔をせずに夫人の体へメスを入れた高峰医師の気遣った言葉に対しての言葉です。
直接的な表現で二人の恋心が描かれたのは、これが最初ですよね。
初めて読んだ際に、あれ?と思ったのも、この部分でした。
高峰医師が夫人の気持ち…お互いに想い合っている関係である事に気づいたのはどのタイミングなのか…、例えば手術に自分が指名された際なのか?という意見も有りますが、僕はこの台詞で始めた気付いたのではないでしょうか。
凄まじい痛みを伴っているはずなのに、あなただから大丈夫…なんて台詞、愛以外からは出てこない筈でしょう?

・ 『でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!
これは夫人が自らの片思いを打ち明ける言葉です。
私はあなたをずっと思い続け、あなたの手によるなら手術の痛みにも耐えることが出来るというのに、あなたは私の気持ちを知らないでしょう?
…そんな思いが込められた言葉です。

・ 『忘れません
本当に短くて、最初に一度読んだだけではさっぱり判らなかった台詞です。
でも後を読めば判るのですが、高峰医師と夫人は以前に出会っている。
きっと普通の作品ではもっと長い言葉を費やして贈られるはずの言葉なのに、泉 鏡花さんは極限までこの言葉を濃縮させています。
私もあなたと出会った事を忘れられず、ずっとあなたの事を想っていましたよ…と。

・ 『伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑を含みて
自分の長い片思いが両思いだったことを最期に知る事が出来た夫人の様子ですね。
時代背景もあるとは想いますが、一般市民との恋愛が許されにくい時代に生まれ、伯爵に嫁いで子供にも恵まれた彼女の人生ですが、この瞬間に初めて報われたのではないでしょうか。
きっとこの手術の空間だけは二人きりの世界、初めて出会えた植物園の時間の巻き戻しだったのはないでしょうか。
死の危険があるというのに自分の子供を手術室へ連れてこさせなかった彼女の気持ちというのは、ifの世界を作り出し自分の思いを告げる事にあったのではないかと思うのです。
その世界に子供という彼女の現実の産物は入り込むべきではなく、彼女の死の瞬間も『あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし。』という空間が作られていたのです。

・ 『青山の墓地と、谷中の墓地と所こそは変わりたれ、同一日に前後して相逝けり。
最後にひっそりと語られるのですが、高峰医師も同じ日に死を選びます。
これは彼の夫人へ対する気持ちへの答えだったのでしょう。
泉 鏡花さんの死後の世界へ対する見解は判りませんので、死後の世界で地位も名誉も関係なく結ばれようとしたのか、それとも死を持って自分の気持ちを打ち明けた夫人へ対して、自らも自分の気持ちを死を持って返したのか…。

□ 何故、二人は死を選んだのか。
手術の最中、彼女は高峰医師の持つメスへ手を添えて自ら死を選びます。
個人的には時代背景なんだと想います。
貴い身分にある彼女と、高峰医師はどれだけ想い合っても結婚というのは難しい状況だったようです。
ましてや夫人のほうは結婚してしまっている。
時代柄や彼女の立場などを考えても、不倫や離婚といった結論は出しづらい。
だから自分の思いへ正直になる事は死だったのではないか、と想うのです。
高峰医師の死も同じような理由だったのではないでしょうか。
彼の場合は夫人ほど熱烈に自分の気持ちを外に出そうとはしませんでしたが、夫人の思いを知って自らもその命で持って応えようと想ったのではないでしょうか。
今の時代であれば、昼ドラにありがちな愛の逃避行もあったのかもしれませんが…。
結末こそ悲劇なれど、美しい純愛の有り方が描かれた名作だと想います。

□ 最後に。
個人的には余り問題として考えているわけではないのですが、ブログの性質上『○○ 感想』といった検索がよくなされますし、長期休暇の時期にそれがやけに増えたりもします。
僕の個人的な考えでも参考になるのであれば参考にして頂ければと想っていますし、使えないなと想って頂いても、それは仕方ないと想います。
ただ本を読むという行為は、どんな感想でもOKだと想うのです。
例えば物凄く下世話に考えればあまりの痛さからの開放を求めての自殺という読み方も出来ますよね。
話を横道にそらしてしまうのですが、国語のテストではないのでどんな読み方も自由です。
名医だと信じていた医師の手術なら麻酔無しでも大丈夫だと想っていたのに、あんまりに痛いので…。とか。
どんな読み方でも自由です。
どうか、参考にしていただくのはして頂いて、後は自分なりの答えを出してもらえればいいと思います。
もしそれを僕にも教えてくれれば、僕はとても嬉しいですし、こんな色々な解釈が出来る作品を書いた著者もきっと喜ばれるのではないかと想うのです。






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タケゾウ
≪『でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!』≫

→「私はあなたをずっと思い続け、あなたの手によるなら手術の痛みにも耐えることが出来るというのに、あなたは私の気持ちを知らないでしょう?」

 このような意味が含まれているというのは「なるほど!」と思いました。短い文章ですが、非常に切迫感のこもっていて、思わず圧倒されるような感を受けました。
2012/12/01(土) 15:24:43 | URL | [ 編集]
Fujisaki
>タケゾウさん
すいません、返信が遅くなりました。
本の虫、中毒日記の藤崎です。

短い台詞ながら、凄く詰め込まれた文章で構成された作品です('▽'*)
解釈の仕方は色々とあるので、僕のした解釈以外にも色々と楽しんでみて下さいね♪
2012/12/10(月) 11:00:57 | URL | [ 編集]












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『―あなたは、私を知りますまい。』 毎回、名作をモチーフに様々な物語を展開していく文学少女シリーズ、続きを読んでみました。 今回のテーマとなるのは泉 鏡花さんの夜叉ヶ池を中心とした作品で、そこに...
2012/06/01(金) 20:34:50 | 本の虫、中毒日記

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