本の虫、中毒日記

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Fujisaki

Author:Fujisaki

基本はシャーロッキアン。
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ぼくと、ぼくらの夏/樋口有介
樋口有介さんのデビュー作を読んでみました。

先に一つだけ言わせてください。
18禁じゃないほうです。

閑話休題。
文体には心なしか、若さというか、最近の作品にあるような徹底して作りこまれたような隙のなさは見られないものの、やはり出てくる登場人物の個性は樋口作品に共通する、それです。
どこと無く冷めた目線で見ながら、でも気持ちのどこかでは優しい言葉を見つけられていて、それを口に出すかどうかを迷っていたり、上手く出せなかったり…。
凄く大人びた描写をする反面、実は凄く幼さを感じさせるキャラクター達には、高校生という設定は相性が良いのかもしれません。

□ あらすじ
戸川春一は父子家庭で家事を全て担う高校生だった。
どこか冷めて周囲に溶け込まなかった彼は、不意に刑事をしている父親から同級生が自殺をした事を聞かされた。
自殺したと聞かされてもピンとこないくらい目立たない少女だった岩沢訓子の死に、春一は何か釈然としないものを感じていた。
そしてたまたま出会った同級生で、テキヤの娘である酒井麻子にその話をした事がきっかけで、少年と少女は同級生の死の真相を探ろうと動き始めるのだった…。
少女が妊娠していたという事実、しかし浮かび上がらないその相手。子供たちが独自の目線から事件の真相へ迫る。


□ 刑事の息子とテキヤの娘の恋愛物語
樋口有介さんの作品なので、推理小説といっても人間の描写がやはり面白い。
デビュー時から既に女に引っ張られていくハードボイルド風な主人公…という定番のパターンは生きていました。
でも後の作品では樋口さんの筆の下、こんな高校生本当に居るのか!?というくらい、ハードボイルドな雰囲気をまとう少年が増えてきた中で、この戸川春一という少年には、本当に自分が少年だった頃の匂いが残されていると思いました。
それは樋口さんの描写自体の幼さもあったのかもしれないけど、ハードボイルドというよりは口下手、不器用な感じで、少女はそんな少年に腹を立てながらも、どこかで通じ合っていく。
言葉がないと判りあえないというのは、大人の理論であって、何かを伝えようとしているんだなという事を感じるだけで、本当はコミュニケーションは成り立つものだったんですよね。この幼い二人の間には、そんな尊い関係があるように感じるのです。

□ 個性豊かなキャラクターたち
酒井組の面子があまり登場しないままに終わってしまったのですが、春一の父親や学校の先生、麻子自身にしても、みんな個性豊かで、どこかの作品で主人公になって登場しそうなくらい、表情豊かに登場しています。
父親も樋口作品の定番?離婚した妻との関係や恋愛感情などもあったりで、愛らしい。
デビュー作にしては、スピンオフ作品をどんどん期待したくなるような濃厚さです。
…ただ残念かな、この作品に続編は無かったんですね。本当に惜しいです。

□ 感想
トリック云々を語るような作家さんではないので、どちらかというと結論ありきで一つの真実へ向かっていくまでの描写を楽しむ方が正解なんだと思うのですが、自殺に対して靴を並べて脱いでから行うということへの猜疑心であるとか、女の子ならアドレス帳(今なら携帯電話でしょうか、この作品は1988年発表です)を持っているべきであるとか、凄く新鮮な目線から事件に対して疑問を投げかけていくというのは興味深いです。
春一の父親は自殺をする前に靴を脱いだ好意を自殺の作法のようなものだと受け流してしまいます。
恐らくこれは、推理小説や映像作品やらを数多く見てきた僕らにとっても同じような感想なんだと思うのですが、確かに『なんで死ぬのに靴を脱ぐんだ?』という思いはあったと思うんですね。
そういった若い目線にこだわって書かれている点は、なんとなく幼い頃の自分と対峙するようでむずかゆいような面白さがありました。今の著者とは少し違った魅力を感じられる良作だと思います。



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